01概要
マイコプラズマ ボビスの細菌学的特徴
- 形態
- ・ マイコプラズマ ボビスは一般細菌と異なり細胞壁(ペプチドグリカン層)を持っていません。そのため、Bラクタム系抗菌剤は効果がありません。
- ・ 一般細菌と比較して小さく(0.1μm〜)、自己複製が可能な最小の生物と言われています。
- 増殖
- ・ 培養で増殖できるものの発育は遅く、固形培地では数日〜1週間程度でコロニーを形成します。
- (標準微生物学 医学書院)
BRDC以外に引き起こす疾病
マイコプラズマ ボビスはBRDCの他、乳房炎、耳炎、関節炎などの疾病を引き起こします。
耳炎
両耳の外耳炎 (垂れ耳)
中耳炎罹患側への典型的な頭部の傾き
内耳炎における持続的な頭部の傾き
内耳炎及び中耳炎の牛における
鼓室胞の横断面
関節炎
右手根関節の腫脹
関節面における繊維素の付着
02免疫からの回避
マイコプラズマ ボビスの生体防御能からの回避メカニズム
- 自然免疫
- ・ 好中球の機能を阻害
- - 活性酸素生成の抑制
- - 貧食能の抑制
- - Neutrophil Extracellular Traps(NETs)の形成阻害
- 詳細はBRDCサポート情報 Vol.7へ
- 獲得免疫
- ・ マイコプラズマ表面タンパクの抗原性の変化
- ・ 免疫チェックポイント分子を介したTリンパ球の疲弊化
- 詳細はBRDCサポート情報 Vol.8へ
物理的な防御として、バイオフィルムを形成することも知られています。
BRDCの先行因子であり、増悪因子
マイコプラズマ ボビスは、牛のマイコプラズマの中で最も病原性が高いと言われています。さらに、マイコプラズマ ボビスには生体の防御機構を回避するメカニズムがあります。
その結果として、他病原体の感染を助長して複合感染を起こしやすくします。マイコプラズマ ボビスは呼吸器病の基礎疾患的な役割を果たしています。呼吸器病を悪化させない、長期化させないために、まずはマイコプラズマ ボビスのコントロールが重要です。
試験1 感染順序による重篤度の違い
方法:2週齢のノトバイオート子牛※2頭にマンヘミア ヘモリチカ血清型1型(8mL:107~8cfu/mL)およびマイコプラズマ ボビス(8mL:108cfu/mL)を2日間のインターバルにて感染順序を変えて鼻腔内接種し、約1週間後に剖検して肺病変面積を比較しました。
※保有している微生物が明らかな実験用子牛
試験2 マンヘミア ヘモリチカの強度感染とマイコプラズマ ボビス感染順序による重篤度の違い
方法:5~9週齢の一般子牛8頭にマイコプラズマ ボビス(8mL:107~8cfu/mL)およびマンヘミア ヘモリチカ血清型1型(8mL:108cfu/mL)を同時あるいはマイコプラズマ ボビス接種の翌日にマンヘミア ヘモリチカを接種し、約1週間後に剖検して肺病変面積を比較しました。
結論
マイコプラズマ ボビスを最初に感染させた後にマンヘミア ヘモリチカを感染させた方が、その逆の感染順序または同時感染によるものより、臨床症状が重篤であり、肺病変面積も大きく重篤でした。
マイコプラズマ ボビスは牛呼吸器病の基礎疾患として重要な役割を果たしていることが示唆されました。マイコプラズマ ボビスをコントロールすることにより、牛呼吸器病をコントロールしやすくできる可能性があります。
(Gourlay, R.N. et al.: Res Vet Sci 38(2): 377, 1985)
症状を確認したときには既に、慢性化しています
マイコプラズマ ボビスは上部気道へ定着後、飼育下でのストレスにより肺組織へ侵入します。その間の臨床症状は不明瞭です。7〜14日後、肺組織への顕著なダメージにより感染が発覚します。このとき既に慢性化しているため、治療への反応は低下します。
03感染の拡がり
鼻汁、乳汁、粘液から感染が拡がります。
マイコプラズマ ボビスは上部気道の粘膜に定着し、通常、臨床症状はありません。また、輸送や飼育環境などでストレスがかかるとき、排菌率は増加すると言われています。
感染被害は急速に広がり、3週間で約2倍
ある牛群において、4日齢時点でのマイコプラズマ ボビス陽性率は48.6%でしたが、25日齢では91.4%とほぼ全頭が排菌するようになりました。
日本における流行状況
国内11道県の26農場194頭から鼻腔ぬぐい液を採取して分離・同定したところ、いずれの月齢においてもマイコプラズマ ボビスは広く浸潤しており、特に2~3カ月齢の牛で高い陽性率が見られました。
04対策方法
治療のポイントは早期発見・充分な期間の治療継続
治療では主に抗菌剤治療が行われます。しかし、抗菌剤等によって呼吸器症状が改善しても、ダメージを受けた肺組織の修復にはさらに時間がかかります。つまり、その間は免疫機能としての防御機能が十分ではないため、再感染のリスクがあります。そのため、マイコプラズマ ボビスへの治療は早期発見・充分な期間の治療がポイントです。
ワクチンと抗菌剤の組み合わせ対策
マイコプラズマ ボビスへ高い有効性を示す、長期持続型抗菌剤ドラクシンに加え、BRDCの総合的な対策としてTSV-2やTSV-3を併用されることも有効な対策となります。