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産褥熱

産褥熱とは

分娩後およそ1週間以内に発症する、子宮および腟などの産道損傷部への細菌感染を原因とする熱性疾患の総称であり、原因疾患は産褥性子宮炎あるいは産褥性腟炎とされています。臨床兆候として、発熱とともに悪臭を伴う悪露の貯留、食欲減退から廃絶、頻脈、呼吸促迫等が認められます。

原因菌は以下の4菌種とされています。
フソバクテリウム・ネクロフォーラム (Fusobacterium necrophorum)、アルカノバクテリウム・ピオゲネス (Arcanobacterium pyogenes)、プレボテラ・メラニノジェニカ (Prevotella melaninogenica)、大腸菌 (Escherichia coli)

難産や分娩介助、双子や死産、胎盤停滞、子宮脱等の修復など、産道を損傷したり感染を助長する事例が分娩時に起こると産褥熱の発症リスクが高くなり、経済的にも深刻な損失を与えることがわかっています。分娩時問題牛の分娩後10日以内の熱発発症率は約30%にも及び、正常分娩牛においても20%が熱発していたという報告もあります(図1)。

1,458頭のホルスタインを分娩時から観察、325頭(22.3%)に熱発が認められた。(Kinsel)


図1 発熱(>39.5度°C)率

また、飼養者が気付かないうちに熱発している場合もあり、餌を通常どおり採食しているのに熱発している例や、熱発しても、その後急性経過をたどらず、自然に解熱している例も多いことがわかっています。これらの見逃された熱発は、実は後々大きな経済的損失をもたらす危険性が高いのです(「産褥熱の経営への影響」参照)。
したがって分娩後一定期間の体温測定は罹患牛の早期発見・早期治療を可能にし、経営上も極めて重要です。
近年、分娩後10日を経過した後にも熱発が観察される事例があり、分娩後2週間の体温測定の必要性も言われています。
さらに、熱発のタイミングは牛群によって異なるという報告もあります(図2)。


図2 発熱のタイミング  Kinsel,ファイザー社内資料 (1999, 2000, 2001)

一方、創傷箇所からの細菌感染は悪臭を伴った悪露として観察されます。治療によって悪露性状が正常化(透明化)するまでには相当の日数がかかります(図3)。


図3 子宮内細菌と悪露

産褥熱の経営への影響

1. 産乳量の減少

分娩時問題牛では正常分娩牛に比較して、乳量が低下しています(図4〜6、Chun Zhou, et al., 2001)。


図4 産乳量の減少(1)


図5 産乳量の減少(2)


図6 10日間の体温モニタリングプログラム

2. 繁殖成績の悪化

分娩後150日時点における受胎率を健康牛と産褥熱罹患牛で比較したところ、健康牛が60%だったのに対して 産褥熱牛は37%であったと報告されています(Hiroven et al., 1999)。これは、日本においては100頭搾乳で約50万円の損失に相当する値です(85頭分娩、25%熱発、分娩後150日時点での受胎率を通常50%、1日空胎による損失¥1,200として試算)。

まとめ

  • 分娩後約30%の牛が熱発している可能性があります。
  • 分娩後7〜10日間(できれば14日間が望ましい)体温を測定することにより、罹患牛の早期発見が可能となり、経営に重大な影響を与える前に対処可能となります。
  • 分娩時に難産、介助、胎盤停滞、双子・死産等の経過があった場合、特に注意が必要です。