前回まで、豚の個体診療(IPC)に関する論文を紹介してきましたが、今回は論文「高リスクな離乳子豚へのツラスロマイシン治療効果」から、個体治療の有用性と薬剤を無駄にしないためのポイントを見ていきます。
高リスクな離乳子豚へのツラスロマイシン治療効果
- 引用文献
- Matt Allerson, John Deen, DVM, MVSc, PhD; Stephanie Rutten, DVM Department of Veterinary Population Medicine, College of Veterinary Medicine University of Minnesota. St Paul, Minnesota Proceeding of the American Association of Swine Veterinarians. 2007 p.71-72
はじめに
肥育期における生産パフォーマンスを最大限に発揮させるためには、離乳期以降の疾病コントロールが非常に重要である。ここでの発育不良や死亡のリスクが高い豚に対するケアは、病原体負荷を減らすことになる。また、離乳時の抗菌剤投与は有効な手段である。
その病原体の中でもとりわけ標的となり得るのは、Mycoplasma hyopneumoniae(M. hp)だ。M. hpは、罹患率が高く事故率の低い、慢性の乾いた咳を特徴とする肺炎を引き起こす。また、他のウイルスや細菌に感染しやすくさせ、豚呼吸器複合疾病(PRDC)に関与する。M. hpのコントロールには飼養管理、抗菌剤、ワクチン投与などさまざまな方法が実践されている。ツラスロマイシンは、マクロライド系の新しい抗菌剤で、家畜の細菌による呼吸器疾病、もちろんM. hpにも効果を示すことが分かっている。
本試験の目的は、離乳期以降における高リスク豚に対するツラスロマイシン製剤(ドラクシン)の呼吸器疾病治療効果を評価することである。
試験農場の概要と試験方法
- ・M. hp陽性の繁殖農場1ヵ所
- ・離乳子豚140頭を選抜(日齢、体重、性別および産歴の異なる母豚から生まれた子豚とする)
- ・離乳時に①離乳体重②性別③母豚産歴④離乳日齢を確認。この他、血液および鼻腔スワブを採取M. hpを抗体検査およびnested PCR法にて評価
- ・供試豚の半数(70頭)を無作為に選び、離乳時にツラスロマイシン0.2㎖(2.5㎎/㎏)を投与。残りの半数は無投与
- ・繁殖農場から離乳子豚を1ヵ所の育成子豚舎に収容
- ・供試豚は140頭で、これを2群に分ける。1つがツラスロマイシン投与群(試験群)で35頭×2区画。もう1つが無投与群(対照群)で35頭×2区画
- ・離乳後25、48日目に鼻腔スワブ、血液を採取。さらに体重を測定
結果
離乳後48日目の離乳期終了時、体重が15.9㎏未満か死亡の場合、発育不良と評価することとし、それに関連する要因として以下の3つが明らかになった。
- ①離乳日齢(図1):離乳日齢は発育成績に影響(早い方が高リスク)
- ②抗菌剤投与(図2):離乳時治療は育成期発育を改善
- ③離乳時低体重(4㎏未満、図3):離乳体重は発育成績に影響(低体重豚は高リスク)
また、離乳時治療と離乳時体重の間に相互作用があり、試験群は低体重豚への治療が奏功。48日齢前後では低体重豚の割合は無投与群よりも改善した(図4)。
さらに抗体検査の結果により、離乳時低体重豚(4㎏未満)の場合、離乳後48日目にM. hp陽性になる可能性が高いことが分かった。鼻腔スワブPCRの結果はすべて陰性であったが、これは使用したPCRの感度が低いためと考えられた。
考察
本試験により、離乳日齢が若い場合および離乳体重が小さい場合に発育不良豚が増えることが明らかになった。さらに、抗菌剤投与が発育不良豚の低減に貢献することも示唆された。これらの要因、すなわち離乳日齢と離乳体重を条件に入れた治療プロトコルを作成することで、より費用対効果の良い抗菌剤投与が可能になるだろう。
薬剤の効果を得るために
前回までは豚の個体診療(IPC)を通したシステマチックかつ人的介入型のトレーニングによる個体治療の重要性を示す事例を述べました。今回は個体治療の際の選択薬剤として、ツラスロマイシン製剤(ドラクシン)が有効である事例を紹介しました。抗菌剤の選択基準として重要なことは、ターゲットの病原体に対する抗菌スペクトルとその投与タイミング、投与対象となる罹患動物の選抜です。投与しても効果が見込めない場合、いくら治療をしても薬剤の無駄になるだけだからです。
本文献では、その選抜基準として、離乳日齢と離乳体重が示唆されていました。IPCを農場で実践する上で、具体的な治療プログラムを作成する必要があるわけですが、その際に本文献の情報が役に立つでしょう。