豚の個体診療(IPC)に関する論文を紹介してきた本連載。最終回となる今回は論文「豚胸膜肺炎の大発生時におけるドラクシン投与の有効性に関する野外試験」から、ドラクシンの個体治療による事故率の改善、高い費用対効果を得られた事例を紹介します。
豚胸膜肺炎の大発生をどう対処するか
- 引用文献
- Salvini F et al. Efficacia e valutazione economica dell’impiego di Draxxin in corso di pleuropolmonite suina. Atti della società italiana Di Patologia Ed Allevamento Dei Suini. 2008 p.311-313
はじめに
豚呼吸器疾病は、今でもイタリアの養豚産業に重大な経済的損失をもたらす主な疾病の1つである。各種病原性細菌および病原性ウイルスの相互作用に加え、管理・環境関連因子も関与する。本野外試験の目的は、深刻な呼吸器疾病に対するドラクシンの治療効果を評価することであった。
試験農場の概要と試験方法
- ・母豚1,500頭の一貫生産農場。候補豚は自家育成
- ・35~65㎏の育成期と60㎏から出荷までの肥育期は連続フロー管理
- ・肥育前期に豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)ウイルス感染を伴い、豚胸膜肺炎の原因菌であるActinobacillus pleuropneumoniae(A. pp)に起因する深刻な肺炎が大発生。こういった状況でドラクシンがどのように効果を示すか、本試験を実施
材料および方法
- ・供試豚:1,634頭(体重約60㎏)。同じ豚舎内に収容
- ・投与時期:最初の呼吸器症状発現から約15日後
- ・試験区:834頭、ドラクシン(1㎖/40㎏)を投与
- ・対照区:800頭、アモキシシリン(400ppm)+リンコマイシン(400ppm)を7日間、経口投与
- ・評価指標:①低体重豚および死亡豚の割合②飼料要求率(FCR)③1日平均増体量(ADG)④経済性(費用対効果)
結果
ドラクシン投与群では低体重豚の割合が大きく減少した(図1)。加えてADGおよびFCRも改善した(図2、3)。
また、ドラクシン群において特に投与開始から30日目までの増体量が、対照群の増加量に比べて非常に多かった(図4)。経済分析の結果、ドラクシン投与群の方が費用対効果が非常に高かった(表)。
結論
豚胸膜肺炎の深刻な大発生時において、ドラクシン投与群は、抗菌剤を経口投与した群に比べて、非常に生産成績も良く費用対効果が高かった。特に、肥育期の最初の30日間、増体量における差が最も大きく、ドラクシンの速やかな治療効果によるところが大きいと考察された。本試験により、ドラクシンがA. ppによる豚胸膜肺炎の治療に対し、より有効な治療薬であることが示唆された。
ドラクシンの個体治療は豚胸膜肺炎にも有効!
今回は、豚胸膜肺炎アウトブレイクの対処法としてドラクシン投与が非常に有効であった事例を紹介しました。本文献では増体やFCRのみならず、費用対効果として経済指標まで分析しています。肥育豚1頭当たり7ユーロの利益の差、これは非常に大きいと言えるでしょう。
ドラクシンというと「離乳ステージにおけるマイコプラズマ対策の武器」という位置付けの印象が強いかもしれませんが、本文献のデータを見ると「肥育ステージにおける豚胸膜肺炎対策の武器」としても期待できそうです。
豚胸膜肺炎が問題となっている農場は、日本でもまだ非常に多いのが現状です。その対策の一助として、ドラクシンが有効であることを証明する大変励みになる知見でした。