萎縮性鼻炎 (AR)
萎縮性鼻炎 (AR) は、鼻甲介※1の形成不全あるいは萎縮を特徴とする呼吸器の感染症です。
死亡率は高くありませんが、発生が多く、発育の遅延・飼料効率の低下・二次的な他の呼吸器病併発により、生産者に経済的損失をもたらします。
※1 鼻甲介:鼻道 (鼻の中の空気の通路) に突出しているひだ。鼻甲介の粘膜には、静脈が発達していて、鼻道を通る空気を暖めたり、湿気を与えたりする。
原因菌
ボルデテラ・ブロンキセプチカ
Bordetella bronchiseptica
容易に豚の鼻腔に感染・定着し、鼻粘膜に炎症を起こし、産生された毒素(皮膚壊死毒:DNT)の作用により鼻甲介の骨形成を阻害する。
毒素産生パスツレラ・ムルトシダ
Pasteurella multocida
パスツレラ・ムルトシダは正常な鼻粘膜には定着しにくく、ボルデテラ・ブロンキセプチカなどにより鼻粘膜に損傷があると定着し、産生された毒素 (PMT・・・DNT類似の毒素作用) により、症状を著しく悪化させる。
感染経路
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感染豚、保菌豚との接触感染、分泌物の飛沫感染
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感染豚の導入、繁殖母豚から哺乳子豚への感染 (垂直感染)、同居豚同士の感染(水平感染)
症状
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感染時の日齢が低いほど症状が重篤化
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豚群における症状の程度は、毒素産生性パスツレラ・ムルトシダの存在・管理レベル・豚群の免疫性などに大きく依存する
初期 | 風邪の症状 (くしゃみ、鼻汁 (水様)、鼻づまり) |
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鼻汁 (粘稠化)、くしゃみ頻発 → 鼻出血 鼻粘膜の炎症が涙管鼻腔開口部に波及し、涙管狭窄/閉塞→流涙 (→アイパッチ※2) 子豚でしばしば気管支肺炎併発 |
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発病後1ヶ月を過ぎると | 鼻骨・上顎骨・前頭骨の発達遅延 → 顔面変形 (上顎の形成阻害 → 咀嚼障害・鼻梁の皮膚に皺、骨の発達が片側だけ阻害 →“鼻曲がり”) |
※2塵埃や飼料で涙が汚れて、目の下が黒褐色斑点を生じたもの
診断
臨床症状 | 鼻出血、鼻曲がり、アイパッチなどから本症が疑われる |
病理学的検査 | (初期) 腹鼻甲介腹側渦萎縮 |
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(病変進行) 腹鼻甲介背側渦・背鼻甲介・篩骨甲介萎縮 | |
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(末期) 鼻甲介全体消失 | |
細菌学的診断 | 原因菌分離培養・同定 |
血清学的診断 | 試験管内凝集反応、スライド凝集反応、毒素中和反応 |
予防・対策
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ワクチン投与
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保菌豚の導入阻止 (清浄な養豚場からの豚導入)
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衛生管理
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繁殖~肥育の一貫生産方式、オールインオールアウト飼育方式導入
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豚舎 (特に分娩豚舎) の清掃・消毒・乾燥・換気※3
※3 換気不良によるアンモニアガス → 鼻腔の粘液分泌減少 → 粘膜表面の防御機構 (抵抗力) 低下 → 原因菌が定着しやすくなります。
治療
テトラサイクリン系などの抗菌剤の投与
ここからは要指示医薬品を含む動物用医薬品に関する情報を提供しています。
獣医療関係者を対象に、日本国内で動物用医薬品を適正に使用いただくため、日本の承認に基づき作成されています。
獣医療行為に携わっている方を対象にしており、一般の方、日本国外の方に対する情報提供を目的としたものではないことをご了承ください。
※要指示薬は獣医師等の処方箋・指示により使用してください。
獣医師・獣医療関係者 一般の方